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日本版対応バージョン 1.2.2 (2023.1.27)
日本版作成協力者:西垣昌和 古屋充子 

遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌/FH腫瘍易罹患性症候群 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
腎癌/サーベイランス 2 2C 2C 3 B 9CC-B
子宮の病理学的精査/年一回の婦人科診察 1 2C 2C 3 A 9CC-A

状態:遺伝性平滑筋腫症腎細胞癌/FH腫瘍易罹患性症候群 遺伝子:FH
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCC の有病率は不明 HLRCC家系は 300 以上報告されている. 1
臨床像(症候/症状) FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCは皮膚及び子宮の平滑筋腫の易罹患性を特徴とする遺伝性腫瘍症候群である.一部の家系では,腎細胞癌を生じる. 良性の皮膚平滑筋腫はよく見られ,肌色から淡褐色の多発性または単発性の結節として生じる.通常は体幹および四肢に限局しているが,顔面に生じることもある.通常触覚および/または冷温に敏感で,痛みを伴うことがある.子宮平滑筋腫(子宮筋腫)は,骨盤痛や月経不順,過多月経を伴う.腎腫瘍は背部痛,血尿を呈することもあれば,無症状の場合もある.これらの腫瘍は通常片側性で孤立性であり,多くは特徴的な乳頭状構造を持つ2型であるが,他の組織型も認められる. 1,2
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCC患者の大多数(76%)は,単発または多発皮膚平滑筋腫を有する.皮膚平滑筋腫が生じる年齢は平均30歳(範囲[10-77])で,年齢とともに大きさと数が増加する傾向がある.子宮平滑筋腫はHLRCC女性の77%に報告されており,平均30歳(範囲[18-53])で出現し,何らかの症状を契機に発見される.子宮筋腫は多発性で比較的大きく,かつ若年発症の傾向があり,一般集団にみられる子宮筋腫よりも若年での介入(子宮摘出または筋腫摘出)を必要とする場合がある. FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCの女性114人中59人が筋腫の核出術または子宮全摘を行い,年齢中央値は35歳(25-58歳)だった.114家系182人中,34人(19%)が腎細胞癌と診断された(診断年齢中央値40歳 範囲[20-73]).FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCに関連する腎癌は他の遺伝性腎癌と比較して進行性,浸潤性が高く,急速に転移し,予後不良である.追跡データのある31人のうち、82%で転移をきたした16人(47%)が転移性腎細胞癌を呈し,別の12人(35%)は3年以内に転移した. 転移性腎細胞癌の患者の生存期間中央値は18カ月だった.他の腫瘍発症リスクとして褐色細胞腫/傍神経膠腫, 副腎腺腫や膀胱腫瘍などの報告があるが, 生涯罹患リスクは不明である. 1,2,3,4
2. 予防的介入の効果
患者の管理 FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCと診断された患者に対して,疾患進行度の確認と管理の必要性を判断するため,以下の評価が推奨される.
・疾患の範囲および皮膚平滑筋肉腫を疑う病変評価のための皮膚科的精査(皮膚生検を含む).
・子宮筋腫のスクリーニングベースラインとしての骨盤MRIおよび/または経腟骨盤超音波検査.
・腎腫瘍のスクリーニングベースラインとしての腎MRI(MRI禁忌の場合は腹部造影CT).
・臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーへのコンサルト. (Tier 4)
1
FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCに伴う腎癌は進行性が強いため,他の遺伝性腎癌よりも早期に,より広範囲な手術が必要である.腎腫瘍が見つかった場合には,腎全摘術を強く考慮する必要がある.転移性が高いため,腫瘍が小さい場合でもリンパ節郭清を考慮する.すでに生じている腎腫瘍に対しては,サーベイランス,クライオアブレーション,ラジオ波焼灼術などの非外科的対応は適切でない. (Tier4) 1,2
サーベイランス サーベイランスに関するコンセンサスはないが,FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCと診断された患者およびFH病的バリアントのヘテロ接合体保因未発症者に対しては,下記を実施することの推奨がある.
・全身の皮膚科的診察(1-2年に1回)
・20歳から(症状がある場合にはそれ以前から)婦人科コンサルト(1年に1回)
・腹部MRI(1-3mmスライス,1年に1回. MRI禁忌の場合は腹部造影CT).8歳から開始が望ましい※. 以前の検査で疑わしい病変(不確定な病変、疑わしいまたは複雑な嚢胞)が発見されている場合は, 速やかにフォローアップを行う必要あり.褐色細胞腫/傍神経膠腫についての統一見解はまだない. (Tier 4)

※ MRIは被ばくを回避できるが、ガドリニウムが健康に与える副作用の可能性を完全否定するものではない。AACRを含め欧米では腹部検診8歳開始が推奨されているが、本邦では保険診療可否含め統一見解はまだない.
1
回避すべき事項 回避すべき事項の情報なし
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCは常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる.de novo発生もある.
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 FHのヘテロ接合性生殖細胞系列病的バリアントが検出されることによって,FH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCの確定診断となる.約90%の患者はシークエンス解析で診断され,約10%は欠失/重複解析により診断される.(Tier3) 1
一般集団における病原性を疑うバリアントの頻度は,0.00254(ExAC)から0.00120(1000GP)と推定される.何らかの疾患で遺伝学的検査を受検した群でのFH病的バリアント保持者は0.3%前後. (Tier5) 5,7
浸透率 皮膚平滑筋腫, 子宮平滑筋腫, 腎腫瘍の結果から浸透率は高いと推察される.(Tier4) 1
114家系182名のFH生殖細胞系列病的バリアント保持者を追跡したフランス国立がんセンターからの報告では,皮膚平滑筋種は73%,子宮筋腫は女性の77%,腎細胞癌は19%に見られた.(Tier3) 4
FH病的バリアント保持者の腎癌生涯リスクは,3.9~12.8%(ExACデータにもとづく),5.3%~17.3%(1000GPデータにもとづく)と推定される.(Tier 5) 5
相対リスク 相対リスクに関する情報は不明である.
表現度 表現型には多様性があり,皮膚平滑筋腫を単数/複数有するする場合もあれば,皮膚病変が無い場合もある.子宮筋腫,腎腫瘍についても同様である.疾患の重症度は、家族内および家族間でかなりのばらつきを示す.(Tier 3) 1
4. 介入の性質(主効果以外の影響)
介入の性質 サーベイランスは非侵襲的である.腹部CTは造影剤への曝露を伴う.
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 皮膚平滑筋腫を有する発端者の家系員24人のうち,71%が以前に診察を受けていないことがわかった,皮膚平滑筋腫を呈した患者のうち,子宮筋腫のスクリーニングを提案された者はいなかった.子宮筋腫がFH腫瘍易罹患性症候群/HLRCCの症例として認識されることはほとんどなかった。(Tier 5) 6
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 診断目的の遺伝学的検査は保険収載されていない*
自費診療での検査は,かずさDNA研究所が受託している.また,複数の商用の腫瘍関連パネル検査に搭載されている.
*がんゲノムプロファイリングの分析対象遺伝子として含まれる

参考文献 原版Date of Search:2015.9.15,日本版Date of Search: 2022.10.6
1. Kamihara J, Schultz KA, Rana HQ. FH Tumor Predisposition Syndrome. 2006 Jul 31 [updated 2020 Aug 13]. In: Adam MP, Everman DB, Mirzaa GM, Pagon RA, Wallace SE, Bean LJH, Gripp KW, Amemiya A, editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993?2022. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1252
2. Hereditary leiomyomatosis and renal cell cancer. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=523
3. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. HEREDITARY LEIOMYOMATOSIS AND RENAL CELL CANCER; HLRCC. MIM: 150800: 2020 Nov 16. World Wide Web URL: https://omim.org/entry/150800.
4. Muller M, Ferlicot S, Guillaud-Bataille M, Le Teuff G, Genestie C, Deveaux S, Slama A, Poulalhon N, Escudier B, Albiges L, et al. Reassessing the clinical spectrum associated with hereditary leiomyomatosis and renal cell carcinoma syndrome in French FH mutation carriers. Clin Genet. 2017;92:606?15.
5. Shuch B, Li S, Risch H, Bindra RS, McGillivray PD, Gerstein M. Estimation of the carrier frequency of fumarate hydratase alterations and implications for kidney cancer risk in hereditary leiomyomatosis and renal cancer. Cancer. 2020 Aug 15;126(16):3657-3666.
6. Alam NA, Barclay E, Rowan AJ, Tyrer JP, Calonje E, Manek S, Kelsell D, Leigh I, Olpin S, Tomlinson IP. Clinical features of multiple cutaneous and uterine leiomyomatosis: an underdiagnosed tumor syndrome. Arch Dermatol. (2005) 141(2):199-206.
7.Lu E, Hatchell KE, Nielsen SM, Esplin ED, Ouyang K, Nykamp K, Zavoshi S, Li S, Zhang L, Wilde BR, Christofk HR, Boutros PC, Shuch B. Fumarate hydratase variant prevalence and manifestations among individuals receiving germline testing. Cancer. 2022 Feb 15;128(4):675-684.