ClinGen 最新版 
Clingen原版 1.2.2 (2022.2.9)
日本版作成協力者:西垣昌和 古屋充子 

Birt-Hogg-Dube症候群 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
腎腫瘍の発生とそれによる死亡/腎腫瘍の画像検査(介入が効果的な場合) 2 2N 2C 3 B 9NC-B

状態:Birt-Hogg-Dube症候群 遺伝子:FLCN
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 Birt-Hogg-Dube 症候群(BHDS)の有病率は20万人に1人と推定されているが,正確な罹患率は不明である.様々な集団からBHDSに罹患した家族が400家系以上報告されている. 1,2
臨床像(症候/症状) BHDSは,様々な組織学的サブタイプの腎腫瘍,皮膚毛包の良性腫瘍(線維毛包腫),および肺嚢胞(自然気胸として現れることがある)を特徴とするまれな疾患である.毛包周囲線維腫,アクロコルドン,および血管線維腫もBHDSと関連しているが,BHDSに特異的なのは線維毛包腫のみである.その他甲状腺の結節や嚢胞,甲状腺癌,結腸直腸癌,良性耳下腺オンコサイトーマ,皮膚型口腔内丘疹,その他様々な腫瘍が報告されている.BHDSは皮膚悪性黒色腫との関連が報告されているが,BHDSのある人のリスクが一般集団と比べて高いかどうかは不明である。
(日本人においては,BHDSと悪性黒色腫の関連は指摘されていない)
1,2,J1
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 皮膚病変は20-30代で発症し,顔面,頚部および前躯幹に好発する.線維毛包腫は,年齢とともに大きさおよび数が増加するが,悪性化ではない.発症が遅いほど,皮膚の表現型はより軽度である.女性は男性よりも病変が小さく,数が少ない傾向がある.皮膚病変は通常,腎腫瘍よりも早期に発症するが,一部の患者は皮膚病変を伴わず,肺や腎の病変を呈する.

肺嚢胞は,ほとんどが両側性で多巣性であり,成人BHDS罹患者の80%以上にみられる.それ自体が肺の症状を引き起こすことはない.しかし,肺嚢胞は自然気胸のリスクが高め,しばしば再発し, 無症状または呼吸困難や胸痛を伴うことがある.BHDS患者における気胸の頻度は22.5~38%とされる(日本人では,142名のFLCN病的バリアント保持者のほとんどが肺嚢胞を有し,312名中230名に気胸の既往があった).FLCN病的バリアントが確認された家系で,肺病変が唯一の疾患症状である症例も報告されている.

腎腫腫瘍は,BHDSと臨床診断された患者のかなりの割合に起こり, 発症年齢は幅がある(年齢中央値48歳;31-71歳). BHDS関連腎腫瘍は,異なる組織学的サブタイプを示す.30人のBHDS患者から得た130の腫瘍を対象とした研究での組織型は,嫌色素性34%、オンコサイトーマ5%、嫌色素性とオンコサイトーマのハイブリッド50%、淡明細胞型9%、乳頭状2%であった(日本人では,順に43.6%,1.8%,34.5%,7.3%,7.3%)これらのうち,オンコサイトーマのみが良性とされている.BHDSに関連する腎腫瘍の多くは両側性,多巣性で成長が遅いことから,死亡率よりも罹患率に影響する.
1,2,3,J1
2. 予防的介入の効果
患者の管理 BHDS と診断された患者の疾患の程度と必要性を確認するために,以下評価が推奨される.
・詳細な皮膚診察:疑わしい皮膚病変のパンチ生検.
・肺嚢胞視覚化のための胸部高分解能CT (HRCT)あるいはCT.気胸症状/徴候がみられる場合にはすぐ胸部X線とCTを撮影し,適切なフォローをする.
・腎腫瘍評価のベースラインとしての腹部/骨盤造影CTもしくはMRI.腎超音波検査は固形腫瘍と嚢胞性変化を判別できるかもしれない.
・遺伝診療部門へのコンサルト
(Tier4)
2
サーベイランス サーベイランス サーベイランスに関するコンセンサスはなく,以下は暫定的な推奨である.

・18歳より開始, またはそれ以降BHDS診断がついてから, 1年毎の腎MRIが疾患評価には最適(家族歴から早期検査が示唆されない限り) . FLCN遺伝学的検査で確定しているが腎腫瘍家族歴がなく, 2-3年続けてMRI検査で腫瘍がない場合は2年毎の検診にしてよい. 1cm未満の病変が見つかった場合は1年毎に戻すべき.
・腎腫瘍:3cm未満の病変は定期的に画像検査する. 急激な増大やそれに関連しうる症状がある場合は個別アプローチを要する. 腫瘍が最大径3cmになったら, 腎機能温存手術のため泌尿器外科医に紹介する.
(欧米人に比べ体格や腎臓サイズが小さい日本人では2c径が目安)
・ある前方視的研究で124人の臨床的および遺伝学的BHDS診断者をサーベイランスしたところ, 34人(27%)に平均50歳で腎腫瘍がみつかった. 3cm以上の腫瘍で外科治療を受けた一施設10人中5人は無病生存, 3人は小腫瘍残存(うち2人は非手術側の腎臓), 2名は中央値38か月で転移性腎癌(主に淡明細胞型)により死亡した.
・皮膚: 全身精査を定期的に行い, 悪性黒色腫を疑う所見がないか確認する(欧米人で悪性黒色腫の報告があるが、日本人での関連は指摘されていない)
・肺嚢胞/気胸:肺CT.無症状の人に対しては、放射線被曝累積を避けるため定期検診は不要.対象は(1)気胸が疑われるか、気胸治療中の人,(2)全身麻酔下の予定手術や長距離フライトを控えた人
・耳下腺腫瘍:耳下腺腫瘍の症候(腫脹あるいは疼痛)の確認を1年ごとに実施
・甲状腺癌:甲状腺エコー.甲状腺癌との関連は不確定的であるため1年毎に評価を考慮する
・大腸癌:大腸癌の家族歴がある場合、当該罹患者が発症した年齢の10年早い段階から大腸内視鏡を始める.大腸癌の家族歴がない場合,40歳から大腸内視鏡の開始を考慮する(Tier 3)
2J1
回避すべき事項 回避すべき事項 喫煙, 気胸を誘発する高い大気圧への曝露, 放射線被曝は避けるべきである. (Tier4) 2
機能している腎組織を温存して病的状態を軽減するため,腎臓全摘術は避けるべきである.(Tier4) 2
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 FLCN(旧名BHD)はBHDSと関連することが知られている唯一の遺伝子である.FLCN病的バリアントの一般集団頻度は報告されていない.FLCN病的バリアントは,解析方法にもよるが,臨床的に診断された人の88-93%で病的バリアントが検出される(Tier3) 2
浸透率 FLCN病的バリアントを有する51家系89人(年齢中央値54歳)を対象とした調査における有症率は以下の通りであった
・線維毛包腫 84%
・肺嚢胞 84% (胸部CT評価)
・自然気胸の既往 38%
・腎腫瘍 34%
別のレビュー論文でFLCN病的バリアントを有する人を対象とした有病率は以下の通りであった:
・線維毛包腫 85% (122/143)
・肺嚢胞 87% (95/109)
・自然気胸の既往 33%(57/171)
・腎腫瘍 20% (35/177)
これらの報告から米国がん研究所臨床センターの報告を除くと
・線維毛包腫 73%
・肺嚢胞 77%
・自然気胸の既往 40%
・腎腫瘍 6.5% (5/177)
であった.(Tier 5)
日本からの報告では※
・皮膚丘疹/腫瘍 48.7%(76/156)
・肺嚢胞 95.0%(132/139)
・自然気胸の既往 84% (131/156)
・腎腫瘍 35.9%(56/156)
※ BHDS関連症状を有する集団での統計 (Tier 3)
4J1
相対リスク BHDSの患者は,病的バリアントを有さない家系員と比較して,腎腫瘍と自然気胸の発症リスクがそれぞれ7倍,50倍に高くなる.(Tier3) 2
表現度 疾患の重症度は,家系間・家系内で大きく異なることがある.(Tier4) 2
4. 介入の性質(主効果以外の影響)
介入の性質 介入は皮膚精査と非侵襲的画像検査である.
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 BHDSの表現型における大きなばらつきがあり,過小診断の原因となる可能性がある.(Tier5) 5
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 診断目的の遺伝学的検査は保険収載されていない*
自費診療での検査は,かずさDNA研究所が受託している.
*がんゲノムプロファイリングの分析対象遺伝子として含まれる

参考文献 原版Date of Search:2016.3.30,日本版Date of Search:2022.10.6
1. Birt-Hogg-Dube syndrome. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=122
2. JR Toro. Birt-Hogg-Dube Syndrome. 2006 Feb 27 [Updated 2020 Jan 30]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2022. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1522
3. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. BIRT-HOGG-DUBE SYNDROME; BHD. MIM: 135150: 2021 Jan 29. World Wide Web URL: http://omim.org.
4. Toro JR, Wei MH, Glenn GM, Weinreich M, Toure O, Vocke C, Turner M, Choyke P, Merino MJ, Pinto PA, Steinberg SM, Schmidt LS, Linehan WM. BHD mutations, clinical and molecular genetic investigations of Birt-Hogg-Dube syndrome: a new series of 50 families and a review of published reports. J Med Genet. (2008) 45(6):321-31.
5. Verine J, Pluvinage A, Bousquet G, Lehmann-Che J, de Bazelaire C, Soufir N, Mongiat-Artus P. Hereditary renal cancer syndromes: an update of a systematic review. Eur Urol. (2010) 58(5):701-10.
J1. Furuya M, Yao M, Tanaka R, Nagashima Y, Kuroda N, Hasumi H, Baba M, Matsushima J, Nomura F, Nakatani Y. Genetic, epidemiologic and clinicopathologic studies of Japanese Asian patients with Birt-Hogg-Dube syndrome. Clin Genet. 2016 Nov;90(5):403-412.