ClinGen 最新バージョン 2.2.1 (2020.8.19)
日本版対応バージョン 2.2.0 (2020.5.2)
日本版作成協力者:浅田晶子 山口 達郎 

MUTYH-関連ポリポーシス サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
大腸がん/ ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査 2 3C 3C 2 B 10CC
上部消化管(胃または十二指腸)がん / ポリープ切除を伴う上部内視鏡検査 2 3C 2D 2 B 8CD

状態:MUTYH-関連ポリポーシス 遺伝子:MUTYH
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 男女の約4.3%が一生のうちに大腸がん(CRC)と診断される。MUTYH関連ポリポーシス(MAP)は、MUTYH遺伝子の生殖細胞系列における両アレルの病的バリアントを有することによって生じる。MAPは、全CRC症例の1%未満、および家族性または早期発症のCRCコホートの最大2%を占めると推定されています。ヨーロッパの一般人口におけるCRCの頻度を5%と仮定すると、全体の有病率は5000人に1人程度と推定される。ある研究では、MAPはCRC444例中2例(0.5%)に認められ、別の研究では、1042例中の0.4%であった。スコットランドの大規模な症例対照研究(症例2,239例、対照1,845例)では、55歳未満のCRC症例の0.8%、全CRC症例の0.54%にMAPが認められた。 1,2,3,4
日本人では男性10.3%、女性の8.1%が一生のうちにCRCと診断される。
APC遺伝子変異を有さない日本人の大腸腺腫症患者14人を調べたところ、3人 (21%) にヘテロ接合体のMUTYH変異を認めたという報告がある。 15
日本人における MUTYH 遺伝子バリアントの頻度や全大腸癌に占める割合は不明である。 16
10-1000個の腺腫性ポリポーシス患者31名を解析したところ、MAP患者2名と、ヘテロ接合体のMUTYH遺伝子の病的バリアントを持つ者を3名同定したとする報告がある。 17
臨床像(症候/症状) MAPは、軽症型ポリポーシスの表現型を示し、CRCリスクが高くなる傾向がある。大半のMAP患者は大腸に十から数百個のポリープを有するが、1,000個以上のポリープを有する患者もいる。主なポリープのタイプは腺腫性だが、過形成型、広基性鋸歯状腺腫(SSA/P)、鋸歯状、または混合型のポリープが発生することがある。十二指腸ポリープは17~25%に認められ、十二指腸がんは4~5%と推定される。その他、卵巣がん、膀胱がん、乳がん、子宮内膜がん、皮膚がん、甲状腺がんなどの消化管外症状が報告されているが、これらの悪性腫瘍の生涯リスクが高まるかどうかはまだ明らかになっていない。まれではあるが、MAP患者にみられるその他の所見としては、脂腺腫、脂腺がんおよび上皮腫、脂肪腫、先天性網膜色素上皮肥大、骨腫、デスモイド腫瘍、類皮嚢胞、および石灰化上皮腫などが報告されている。 2,3,5,6,7
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 大腸腺腫性ポリープは平均して50歳で発症する。適切なサーベイランスが行われていない場合、CRCの生涯リスクは40%からほぼ100%になる。CRCの平均発症年齢は48歳(発症年齢の中央値は45~59歳)で、50歳までのCRCのリスクは19%、60歳までのリスクは43%である。CRCは、ポリポーシスを伴わないMAPの患者さんの一部にも発症する。十二指腸ポリープはMAP患者の4~25%に認められ、MAP患者における十二指腸癌の生涯リスクは4~5%、平均診断年齢は61歳である。胃癌はMAP患者の1%で認められ、平均診断年齢38歳である。ほとんどの主要な民族は、特有のMUTYH遺伝子の創始者変異を持つようである。 2,3,5,6,8,9,10
2. 予防的介入の効果
患者の管理 MAPと診断された患者さんの病気の程度やニーズを把握するために、以下のような評価を行うことを推奨する。
- MAP(または大腸がん)に関連する症状に重点を置いた病歴の聴取:腺腫性優位の大腸ポリープ、大腸がん、下血、腹痛や腹部不快感、腹部膨満感、下痢
- 大腸内視鏡検査と病理検査の確認
- 上部内視鏡検査と病理検査の確認
- ベースラインの甲状腺超音波検査
- 皮膚科医による皮膚検査を検討する。
- 臨床遺伝専門医および/または遺伝カウンセラーとのカウンセリング(Tier 4)
2
患者はMAPに精通した医師や専門機関によって、遺伝子型、表現型、個人差を考慮して個別に管理されることを推奨する。(Tier 2) 6
ポリープが少ない人には、適切であれば外科的治療に関する評価とカウンセリングが推奨される。ポリペクトミーでは管理できない重篤なポリポーシスの患者には、IRAまたはIPAAによる(直腸結腸)切除術が推奨される。(Tier 2) 3,6,7,8,10,11
14人のMAP患者を対象とした後ろ向き観察研究では、結腸全摘出術・回腸直腸吻合術(IRA)とその後の毎年の肛門鏡サーベイランスを受けた11例のうち、サーベイランス中に直腸がんを発症した例はなかった(期間の中央値は5年)と報告されている。(Tier 2) 3
Attenuate型家族性大腸腺腫症(AFAP)患者の大規模観察研究において、IRAによる切除後、平均3.4個の再発ポリープ(範囲、0~29)が認められ、平均7.8年(範囲、1~34年)の追跡調査では、切除後の残存直腸には1個のがんしか認められなかった。(Tier 2) 3
サーベイランス 大腸内視鏡検査とポリペクトミーは成人期早期から推奨されている(年齢や頻度はガイドラインやポリープの重症度によって異なる)。大腸内視鏡によるサーベイランスとポリペクトミーがCRCのコントロールに有効であるとされているが、このことはMAPにおいては確定的ではない。CRCやポリープを発症せずに55歳に達したとするMAP患者の報告はない。(Tier 2) 3,5,6,7,8,10,11
リンチ症候群では1-3年毎のサーベイランスはCRCのリスクを低減させることが示されていますが、MAPの患者では、スクリーニングプログラムの有効性に関するエビデンスは確認されていない。サーベイランスとCRCの発生に関する6つの研究のうち5つの研究では、サーベイランスによりCRCの発生率が有意に減少することが示されている(OR推定区間0.11~0.35)が、6つ目の研究ではORが0.93と報告され、有意な減少はみられなかった。サーベイランスと死亡に関する4つの研究のうち3つの研究において、サーベイランスを行った群に死亡例はなく、(4つの研究のうち)2つの研究において、サーベイランスによりCRC関連死亡率が有意に減少することが示された(OR推定区間0.04~0.17)。(Tier 5) 12
十二指腸鏡検査を含む上部消化管内視鏡検査は、胃腫瘍および近位小腸腫瘍のスクリーニングに推奨されるが、サーベイランスを開始する頻度および年齢はガイドラインによって異なる。上部消化管内視鏡検査は側視鏡で補われるべきであり、胃の検査には胃底腺ポリープのランダムサンプリングを含めるべきである。上部消化管スクリーニングは予後を改善することは実証されていないが、がんリスクおよび死亡率の改善が期待できることを考慮すると推奨される。(Tier 2) 3,5,6,7,8,10,11
十二指腸サーベイランスは家族性大腸腺腫症(FAP)において有益と考えられている。スクリーニングでがんが検出された患者の生存期間中央値は8年(95%CI、5.9- - )であったのに対し、症状で発見された患者の生存期間は0.8年(95%CI、0.03-1.7)であった(p<0.0001)(Tier 5)。 13
MAPの患者に推奨するサーベイランス ・大腸: 25~30歳を開始年齢として1~2年に1回、大腸内視鏡検査(ポリペクトミーを含む)を受ける
・十二指腸・胃:30~35歳を開始年齢として3ヶ月~4年に1回、上部内視鏡検査と側面視十二指腸検査を受ける
・腸管外の悪性腫瘍:年一回の身体検査を考慮し、場合によっては甲状腺超音波検査を行う。また、1回又は年1回 皮膚科医による皮膚検査を検討してもよい。(Tier3)
3
M年に一度の診察が推奨される。(Tier 2)
MAPの患者に推奨するサーベイランス
・大腸: 25~30歳を開始年齢として1~2年に1回、大腸内視鏡検査(ポリペクトミーを含む)を受ける
・十二指腸・胃:30~35歳を開始年齢として3ヶ月~4年に1回、上部内視鏡検査と側面視十二指腸検査を受ける
・腸管外の悪性腫瘍:年一回の身体検査を考慮し、場合によっては甲状腺超音波検査を行う。また、1回又は年1回 皮膚科医による皮膚検査を検討してもよい。(Tier3)
3
NCCN [2019]のガイドラインでは、CRCと診断された第一度近親の親族を持つMUTYHヘテロ接合体(MAPを持たない)は、40歳から始まる5年ごと、またはCRC診断時の第一度近親の親族の年齢の10年前から始まる5年ごとに大腸内視鏡検査を受けることを提案している。 CRCと診断された第二度近親の親族 を有する又はCRC の家族歴がない MUTYH ヘテロ接合体の場合は、決定的なデータがないため、スクリーニングのアドバイスはない。(Tier1) 3
回避すべき事項 喫煙はポリープの発生に影響を及ぼす可能性がある。MAPを有する一卵性双生児の症例報告によると、喫煙した姉の方が喫煙しなかった双子の妹よりもやや重度の表現型が観察された。両双子には約30個の小さめの低異型度腺腫があったが、喫煙した双子の姉には3個のより大きな(6~10mm)腺腫と70mmの限局性高度異型腺腫が1個あった。(Tier 3) 2
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 北欧、オーストラリア、USの一般的な人口の1-2%がMUTYH変異のヘテロ接合体であると推定されています。MUTYH変異の両アレル変異保有者の有病率は、1:40,000-1:10,000として導き出される。(Tier 3) 1,2,3,5
浸透率 大腸ポリープの浸透率は不明であり、MAP患者の最大1/3はポリープシスなくCRCを発症しており、不完全浸透を示唆している。(Tier 3) 2
MAPにおけるCRCの浸透率は43~100%と推定される。(Tier 3) 1,2,3,5
MAPにおける結腸外腫瘍の生涯リスクについては、MAP患者276人を対象とした研究では、17%が結腸外病変を有しており、結腸外悪性腫瘍の生涯リスクは38%と推定され、これは一般集団の約2倍のリスクとなっている。MAPにおける十二指腸癌の生涯リスクは4~5%と推定される。胃十二指腸ポリポーシスは20%以上の症例で報告されている。MAP患者の最大11%に胃病変が認められ、推定1%が胃がんを発症するとされているが、現在のところ、胃がんリスクの増加を支持するデータはない。(Tier 3) 3,5,7
相対リスク 20,565例のCRC症例と15,524例の対照群を対象とした研究では、MAP患者はCRCのリスクが28倍であった(OR=28.3、95%信頼区間:6.95-115)。すべての発表済みおよび未発表のデータセットをプールしたメタアナリシスでは、MAP患者におけるリスクの増加が示された(OR:10.8、95%CI:5.02-23.2)。(Tier1) 14
表現度 大腸腺腫の発生にはばらつきがある。(Tier 3) 3,6,7
4. 介入の方法
介入の方法 大腸内視鏡検査では、穿孔、出血、死亡などの合併症のリスクはちいさいもの存在する。 5
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 MAP患者のサーベイランスの推奨は、一般集団のスクリーニングの推奨よりも早い年齢から開始される。(Tier 2) 3,5,6,7,10
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 自費で可能

参考文献
1.Aretz S, Genuardi M, Hes FJ. Clinical utility gene card for: MUTYH-associated polyposis (MAP), autosomal recessive colorectal adenomatous polyposis, multiple colorectal adenomas, multiple adenomatous polyps (MAP) - update 2012. Eur J Hum Genet. (2013) 21(1).
2.M Nielsen, H Lynch, E Infante, R Brand. MUTYH-Associated Polyposis. 2012 Oct 04 [Updated 2019 Oct 10]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2020. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK107219
3.Syngal S, Brand RE, Church JM, Giardiello FM, Hampel HL, Burt RW. ACG clinical guideline: Genetic testing and management of hereditary gastrointestinal cancer syndromes. Am J Gastroenterol. (2015) 110(2):223-62; quiz 263.
4.National Cancer Institute,. SEER Stat Fact Sheets: Colon and Rectum Cancer. (2018) Website: http://seer.cancer.gov/statfacts/html/colorect.html
5.Cairns SR, Scholefield JH, Steele RJ, Dunlop MG, Thomas HJ, Evans GD, Eaden JA, Rutter MD, Atkin WP, Saunders BP, Lucassen A, Jenkins P, Fairclough PD, Woodhouse CR. Guidelines for colorectal cancer screening and surveillance in moderate and high risk groups (update from 2002). Gut. (2010) 59(5):666-89.
6.National Comprehensive Cancer Network,. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Colorectal (version 3.2017). Other. (2017) Website: http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/genetics_colon.pdf
7.Vasen HF, Moslein G, Alonso A, Aretz S, Bernstein I, Bertario L, Blanco I, Bulow S, Burn J, Capella G, Colas C, Engel C, Frayling I, Friedl W, Hes FJ, Hodgson S, Jarvinen H, Mecklin JP, Moller P, Myrhoi T, Nagengast FM, Parc Y, Phillips R, Clark SK, de Leon MP, Renkonen-Sinisalo L, Sampson JR, Stormorken A, Tejpar S, Thomas HJ, Wijnen J. Guidelines for the clinical management of familial adenomatous polyposis (FAP). Gut. (2008) 57(5):704-13.
8.Balmana J, Balaguer F, Cervantes A, Arnold D. Familial risk-colorectal cancer: ESMO Clinical Practice Guidelines. Ann Oncol. (2013) 24 Suppl 6:vi73-80.
9.Hegde M, Ferber M, Mao R, Samowitz W, Ganguly A. ACMG technical standards and guidelines for genetic testing for inherited colorectal cancer (Lynch syndrome, familial adenomatous polyposis, and MYH-associated polyposis). Genet Med. (2014) 16(1):101-16.
10.Diagnosis and Management of Colorectal Cancer. SIGN. (2015) Website: http://www.sign.ac.uk/pdf/sign126.pdf
11.Stoffel EM, Mangu PB, Limburg PJ. Hereditary colorectal cancer syndromes: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline endorsement of the familial risk-colorectal cancer: European Society for Medical Oncology clinical practice guidelines. J Oncol Pract. (2015) 11(3):e437-41.
12.Barrow P, Khan M, Lalloo F, Evans DG, Hill J. Systematic review of the impact of registration and screening on colorectal cancer incidence and mortality in familial adenomatous polyposis and Lynch syndrome. Br J Surg. (2013) 100(13):1719-31.
13.Bulow S, Christensen IJ, Hojen H, Bjork J, Elmberg M, Jarvinen H, Lepisto A, Nieuwenhuis M, Vasen H. Duodenal surveillance improves the prognosis after duodenal cancer in familial adenomatous polyposis. Colorectal Dis. (2012) 14(8):947-52.
14.Theodoratou E, Campbell H, Tenesa A, Houlston R, Webb E, Lubbe S, Broderick P, Gallinger S, Croitoru EM, Jenkins MA, Win AK, Cleary SP, Koessler T, Pharoah PD, Kury S, Bezieau S, Buecher B, Ellis NA, Peterlongo P, Offit K, Aaltonen LA, Enholm S, Lindblom A, Zhou XL, Tomlinson IP, Moreno V, Blanco I, Capella G, Barnetson R, Porteous ME, Dunlop MG, Farrington SM. A large-scale meta-analysis to refine colorectal cancer risk estimates associated with MUTYH variants. Br J Cancer. (2010) 103(12):1875-84.
15 Keiko Taki 1 2, Yuri Sato 1, Sachio Nomura 1 3, Yuumi Ashihara 1, Mizuho Kita 1, Ikufumi Tajima 4, Kokichi Sugano 5, Masami Arai 6, Mutation analysis of MUTYH in Japanese colorectal adenomatous polyposis patients, Fam Cancer, (2016) Apr;15(2):261-5..
16遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2020 年版Jr
17 Takao M, Yamaguchi T, Eguchi H, Tada Y, Kohda M, Koizumi K, Horiguchi SI, Okazaki Y, Ishida H. Characteristics of MUTYH variants in Japanese colorectal polyposis patients. Int J Clin Oncol. 2018 Jun;23(3):497-503. doi: 10.1007/s10147-017-1234-7. Epub 2018 Jan 12. PMID: 29330641.