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日本版作成協力者:浅田晶子 藤井 正純 

神経線維腫症2型 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
前庭神経鞘腫 /MRI/スクリーニング 2 3B 2B 3 B 10BBB

状態:神経線維腫症2型 遺伝子:NF2
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 過去には、神経線維腫症2(NF2)の推定有病率は1:210,000と推定されていた。しかし、2010年の研究では、これより高い1:60,000と推定された。 1,2,3,4
有病率は、さらに高い1:25,000とする研究もある。本邦における2009年~2013年の臨床調査個人票に基づく調査では,全国で807名が登録されており、女性が男性より1.3倍とやや多く、家族歴無しが67%で、家族歴有り(33%)のほぼ2倍あること、発症年齢分布が1-80歳と広いなどの特徴が見られた。 6, 7, 8
臨床像(症候/症状) NF2は、神経系腫瘍(神経鞘腫および髄膜腫)、眼球異常、および皮膚腫瘍の発生を特徴とする。両側の前庭神経鞘腫は成人患者の95%に発生する;前庭神経鞘腫の増大率は、患者間においても、また同じ患者でも経時的にばらつきがおおきい。神経鞘腫は、典型的には両側の前庭神経に発生し、聴覚障害や聾、耳鳴り、めまい、平衡失調を引き起こす。
NF2による腫瘍は悪性ではないが、発生する解剖学的位置の特性や多発性に発生することによって、重い症状につながりやすく、早期の死亡に繋がる。
1,2,3,4
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) NF2患者の平均発症年齢は18~24歳(年齢幅は出生~70歳)である。ほぼすべての罹患者が30歳までに両側の前庭神経鞘腫を発症する。平均死亡年齢は36歳であり、生命表に基づく、確定診断後の生存期間は15年である。NF2に人種的または民族的な偏りはない。 小児期発症NF2では、必ずしも前庭神経鞘腫を伴わず、その他の部位の神経鞘腫・皮膚症状・眼症状などで発症することがある一方、成人期発症NF2は通常、聴覚器の症状 を呈する。診断時の年齢、頭蓋内髄膜腫の存在、治療に当たった医療機関、およびNF2変異の種類は、死亡リスクの参考になる予測因子である。診断時年齢は、最も強い単一の予測因子である。 1,2,4
1999年に本邦で実施されたNF2患者の予後調査では、25歳未満の若年発症例の予後が悪く、5年・10年・20年生存率はそれぞれ、80%・60%・28%であったのに対して、25歳以上発症例の生存率はそれぞれ、100%・87%・62%であった。 9
2. 予防的介入の効果
患者の管理 診断時には、頭部MRI、聴性脳幹反応を含む聴力評価、眼科評価、皮膚評価、遺伝学的コンサルテーションが推奨される。(Tier 4) 1
NF2患者は専門医療機関で管理すべきである。専門医療機関で管理されているNF2患者は、非専門医療機関で治療されている患者に比べて死亡リスクが有意に低い(相対リスク0.34、95%CI 0.12-0.98)。(Tier2) 4
NF2の患者の管理においては、聴力温存と聴力の補助が重要である。罹患した全ての患者とその家族は、聴覚を専門とする耳鼻科医・言語聴覚士に紹介されるべきである。(Tier2) 5
全身麻酔下での操作による合併症を防ぐために、頭蓋・脳手術の前に頸椎の画像診断検査を行うべきである。腰椎麻酔・硬膜外麻酔を実施する前に腰仙椎部の画像診断検査を行うべきである。(Tier 3) 1
サーベイランス 腫瘍がない非確診例で、NF2のリスクがある患者では、20歳未満の患者では2年ごと、20歳以上の患者では3年ごとにMRI検査の実施で十分である。初回のMRI検査は10~12歳、または重症家系ではそれ以前でもよい。NF2患者の10%の症例では、10歳前に症状を呈する。腫瘍が出現した後は、腫瘍の増大率が定まるまでは、少なくとも年1回のMRIスクリーニングを行うべきである。聴性脳幹反応を含む年1回の聴力検査が有用である。最初の探索で腫瘍が認められない場合を除き、年1回の神経学的検査と2~3年ごとの脊髄MRIが有用と考えられる。(Tier 2) 4,5
妊娠中に神経鞘腫のサイズが増大するという説得力のある証拠はないが、髄膜腫に対するホルモンの影響が考えられる;したがって、妊娠を検討している女性にとっては、頭蓋内圧上昇の潜在的なリスクを評価することが重要である(Tier4)。 2
すでに NF 2 と診断された患者や家系内における発症前診断によって変異が同定された未発症者に対しては,10―12歳時より,年1回の MRI による定期画像検査と聴力の評価を開始し,少なくとも30歳代まで継続することが推奨されている。また小児期に腫瘍に対して放射線治療を行うことは,腫瘍の発生リスクを高める可能性があるため推奨されない。 10
回避すべき事項 成人において回避すべき事項として推奨できるものはない。 2
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色優性遺伝形式
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 NF2遺伝子変異の一般集団における頻度は不明である。
浸透率 浸透率 浸透率は100%に近い。生殖細胞に病的変異を持つほとんど全ての人で、平均寿命の間に発症する。(Tier4) 1
相対リスク 成人において相対リスクに関する情報は得られなかった。
表現度 表現度 前庭神経鞘腫の増大率は、患者間でも、また同一患者でも経時的に極めて大きなばらつきがある。同一家族内の同年代のNF2患者間でも、増大率は非常にばらつきが大きい。(Tier 3) 1,3,4
4. 介入の方法
介入の方法 NF2の管理には、さまざまな非侵襲的スクリーニング検査が必要。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 定期的なスクリーニング(MRI、神経学的検査、聴力検査)は、診断時に開始することが推奨され、家系員の場合はそれ以前に開始することが推奨される。上記スクリーニングは、一般的な集団の推奨基準よりも頻回に実施する。 2,4
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 遺伝学的検査は自由診療である。

参考文献
1.Neurofibromatosis 2. Gene Reviews. (2018) Website: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1201/
2.Neurofibromatosis type 2. Orphanet. (2009) Website: http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?Expert=637
3.Baser ME, R Evans DG, Gutmann DH. Neurofibromatosis 2. Curr Opin Neurol. (2003) 16(1):27-33.
4.Evans DG, Baser ME, O'Reilly B, Rowe J, Gleeson M, Saeed S, King A, Huson SM, Kerr R, Thomas N, Irving R, MacFarlane R, Ferner R, McLeod R, Moffat D, Ramsden R. Management of the patient and family with neurofibromatosis 2: a consensus conference statement. Br J Neurosurg. (2005) 19(1):5-12.
5.Gutmann DH, Aylsworth A, Carey JC, Korf B, Marks J, Pyeritz RE, Rubenstein A, Viskochil D. The diagnostic evaluation and multidisciplinary management of neurofibromatosis 1 and neurofibromatosis 2. JAMA. (1997) 278(1):51-7.
6. Evans DG, Moran A, King A, Saeed S, Gurusinghe N, Ramsden R, Incidence of vestibular schwannoma and neurofibromatosis 2 in the North West of England over a 10-year period: higher incidence than previously thought. Otol Neurotol. 2005;26(1):93.
7.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)”神経皮膚症候群に関する診療科横断的な診療体制の確立”研究班http://plaza.umin.ac.jp/nf2guideline/
8. Iwatate K, Yokoo T, Iwatate E, Ichikawa M, Sato T, Fujii M, Sakuma J, Saito K. Population Characteristics and Progressive Disability in Neurofibromatosis Type 2. World Neurosurg. 2017 Oct;106:653-660. doi: 10.1016/j.wneu.2017.07.036. Epub 2017 Jul 16.
9. Otsuka G, Saito K, Nagatani T, Yoshida J. Age at symptom onset and long-term survival in patients with neurofibromatosis Type 2. J Neurosurg. 2003 Sep;99(3):480-3.
10. 櫻井 晃洋,めまい・平衡障害をきたす遺伝性脳腫瘍, Equilibrium Res (2014)Vol. 73(6) 477~484,