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日本版作成協力者:川崎秀徳 鈴木 茂伸 

網膜芽細胞腫(Rb)サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
Rbによる病的状態もしくは死亡/サーベイランス 2 3C 3B 2 B 10CB-B
二次性眼外悪性腫瘍による病的状態もしくは死亡/サーベイランス 2 2C 2N 3 B 9CN-B

状態:網膜芽細胞腫(Rb) 遺伝子:RB1
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 Rbは小児の眼内腫瘍で最も頻度が高い。有病率は生産児15,000~20,000人あたり1人の頻度と推定されている。 1.2.3.
4.5.6.
人種差・性差はなく、日本国内の有病率は約16,000出生に1人とされ、国内では年間80人弱の発症が見られる。 15
臨床像(症候/症状) Rbは生命と視力を脅かす小児がんである。罹患者の約60%は一側性(片眼性)であるが、この場合には一般的に単巣性である。約40%は二側性(両眼性)である。一部の症例は、両眼性Rb(またはまれに片眼性Rb)に松果体芽腫を合併し、三側性と言われる。Rbで認められる最も一般的な徴候は白色瞳孔である。斜視は2番目に多い徴候であるが、白色瞳孔と同時に出現することもあれば、白色瞳孔に先行して出現することもある。またRb患者では外斜視と内斜視のどちらを生じることもある。頻度は多くないが、緑内障、眼窩蜂巣炎、ぶどう膜炎、前房出血、硝子体出血などがRbで認められることがある。このような非典型的な症状は年長児に多く見られる。骨肉腫、軟部組織肉腫、黒色腫など、他の特定の眼球外原発腫瘍(総称して二次原発腫瘍とよばれる)のリスクが高い。 1.2.5.6
日本人を含むアジア人種では黒色腫自体の頻度が低く、二次原発腫瘍としてはまれである。 17
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 診断時の平均年齢は、一側性Rbで24ヶ月、二側性Rbで15ヶ月である。大多数のケースは5歳までに発見されている。未治療だとRbは致命的である。適切な時期のスクリーニング、診断、紹介、治療、そして集学的チームによる体系的なフォローアップを行うことで、95~98%の例で治癒が得られ、多くは視力が温存されている。眼球を温存できる割合は、斜視で発見されたケース(5年間で17%)よりも白色瞳孔で発見されたケース(5年間で8.5%)の方が有意に低い。三側性Rbの予後は依然として不良で、ほとんどの患者が診断後2年以内に進行性の病変のために死亡する。
二次原発腫瘍は通常青年期または成人期に発症する。遺伝性Rb生存者において40年間の累積死亡率は17%で、累積罹患率は28%である。二次原発腫瘍は、外照射療法(EBRT)を受けたRb患者の50%以上で発生する。
1.2.5.6
2. 予防的介入の効果
患者の管理 良好な予後を達成するために複雑な治療が必要となるため、Rb専門医、眼科医、小児腫瘍科医、麻酔科医、義眼師、病理医、放射線腫瘍科医、ソーシャルワーカー、心理社会的支援者を含めた集学的チームによる専門診療センターが患児ならびに家族のケアにとって重要である。集学的チームによって、適切な時期でのスクリーニング、診断、紹介、治療、フォローアップが系統的に提供されることで、Rb患児の95~98%は治癒が得られ、その多くは視力が温存される。(Tier 2) 1
遺伝性Rbの生存者において、Rb罹患後の二次原発腫瘍は早期死亡の主要な原因となる。最近行われた米国の後方視的コホート研究によると、Rb診断から50年間の二次原発腫瘍による累積死亡率は、遺伝性Rb生存者で25.5%(95%CI=20.8~30.2%)、非遺伝性Rb生存者で1.0%(95%CI=0.2~1.8%)であった。(Tier 5) 7
サーベイランス Rbの経験のある眼科医による検査を含む臨床スクリーニングを出生時に開始し、生涯にわたって続ける。スクリーニングは出生時から5歳になるまで、Rbの経験のある眼科医により、赤色反射試験やヒルシュベルグ試験が行われる。これらの検査で異常な結果が認められた場合には、小児麻酔科医が麻酔を提供した上で頻回の検査(EUA)を行うことが勧められる。腫瘍が小さい段階で早期診断をつけることで、生存率や視力転帰がよくなる他、化学療法、眼球摘出、放射線療法を行う必要性を減らすことができる。スクリーニングを受けなかったRb発端者18人と、Rbアットリスクの家系構成員でスクリーニングを受けた26人を比較した後方視的研究によると、発端者はアットリスク者に比べて診断が遅く(17ヶ月対8ヶ月)、初期眼内病変(A群またはB群)率が低く(3%対58%)、片眼を摘出した率が高く(100%対20%)、患側の眼の放射線照射を受けた率が高く(32%対9%)、視力0.5以上を維持できた割合が低く(26%対50%)、眼球を温存できる割合が低かった(45%対80%)。このようにアットリスク者に対してスクリーニングを行うことで早期に診断でき、予後を改善できる可能性がある。(Tier 2) 1.4
遺伝性Rbに対する二次原発腫瘍の早期発見のための確立されたスクリーニング法は存在しない。しかし、骨肉腫ならびに軟部肉腫のリスクが高いことから、あるガイドラインでは可能であれば長期生存者外来において毎年身体診察を行うとともに、徴候や症状に関する教育を十分行っておくことを勧めている。年1回の全身MRI(WBMRI)を検討してもよいが、全身麻酔の危険性なく検査が可能となる8から10歳以降が妥当である。この方法がRb生存者のサーベイランスに対して有用かを知るためには更なるデータが必要であり、可能な範囲で前方視的に検討を重ねていく必要がある。(Tier 2) 8
25人のRb生存者に対してWBMRIによる骨肉腫の検出を評価した予備研究がある。その結果、5人の患者で悪性腫瘍の疑いのある新たな骨病変が検出され、2人が骨肉腫と診断されたが、1人はWBMRIスキャン結果が正常とされた3ヶ月後に骨肉腫と診断された。実施された計41回のWBMRIスクリーニング検査のうち、二次性悪性腫瘍の検出感度は66.7%、特異度は92.1%、陽性適中率は0.4、陰性適中率は0.97であった。(Tier 5) 9
注:以下に示す情報は、問題になっている遺伝子と疾患のペアとは直接関連しない。以下の編集コメントはエビデンスを説明していて、下記の出典を含んでいない。WBMRIによる二次性原発腫瘍の検出には十分なエビデンスは得られていない。Li Fraumeni症候群(LFS)患者では、小児Rb患者における二次悪性腫瘍と重複する腫瘍の発生が見られる。Rbにおける二次性悪性腫瘍の浸透度は不明であるが、LFSよりは低いと考えられている。そのため、LFSにおけるWBMRIの報告をレビューした。 無症状の時点でベースラインの評価としてWBMRIを施行した578人のLFS患者(平均年齢=33.2歳、標準偏差=17.1歳)が含まれていた、13個の前方視的コホート研究をメタ解析したところ、7%の症例でがんが発見され、うち83%のがんは限局性で根治治療が実施できたということが分かった。(Tier 5) 10
さらに、子どもを含めたLFS患者を11年間観察した前方視的研究では、身体診察、頻回の生化学検査ならびに画像検査(WBMRIを含む)を用いたサーベイランスによる予後の比較検討が行われた。40人がサーベイランスを受け、40人がサーベイランスを受けなかった(うち19人は途中でサーベイランス群にクロスオーバーとなった)が、サーベイランスを受けた群での5年全生存率が88.8%(95%CI=78.7~100%)であったのに対して、サーベイランスを受けなかった群では5年全生存率が59.6%(95%CI=47.2~75.2%)であった(p=0.0132)。(Tier 5) 11
家族の疾患管理 発端者のRB1遺伝子変異が同定されている場合は、その情報を利用してアットリスク者の分子遺伝学的解析を行うことができる。発端者の遺伝情報が不明の場合には、アットリスク者に対しては上述のサーベイランスが必要となる。 5
回避すべき事項 二次性原発腫瘍のリスクがあるため、放射線照射は避けるべきである。頭部や眼窩を精査する際には、高い画像解像度と放射線照射の回避のために、CTよりもMRI撮像の方が好まれる。放射線照射を回避する保存療法は、初期のRbや一部の進行した眼内病変に対して効果的な可能性がある。遺伝性Rb患者963人を対象としたコホート研究によると、二次性腫瘍のリスクは放射線照射群(SIR:22、95%CI:19~24)が放射線非照射群(SIR:6.9、95%CI:4.1~11)に比べて3.1倍(95%CI:2~5.3倍)高いことが分かった。さらに、50年間の二次性腫瘍の累積罹患率は、放射線非照射群で21.0%(95%CI:9.4~35.6%)であったのに対して、放射線照射群で38.2%(95%CI:32.6~43.8%)であった。(Tier 2) 1.2.5.12
患者は二次性原発腫瘍のリスクが高いため、放射線療法のみならず、他のDNAに損傷を与えるようなもの(タバコ、紫外線など)への曝露を制限すべきである。(Tier 3) 5
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝形式 1.3.5.13
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 Rbの発生率は15,000~20,000出生に1人である。60%の症例はRbが片側性であるが、このうち15%がRB1遺伝子の生殖細胞系列変異による。40%の症例はRbが両側性であるが、こちらは全例RB1遺伝子の生殖細胞系列変異による。そのため、生殖細胞系列変異による片側性Rbと両側性Rbの集団罹患率は、それぞれ3/500,000~9/2,000,000と4/150,000~2/100,000である。(Tier 3) 2.3.5.6
浸透率または相対リスク 高い浸透率(>90%)を有するRB1遺伝子の生殖細胞系列変異は、両側性Rb患者全例と片側性Rb患者の15%に関係する。(Tier 3) 1.3.5.6
10%未満の家族で、発現度が低下した「低浸透率」の表現型(つまり片側性Rbの罹患率が上昇)や不完全浸透(つまり≦25%)がみられる。(Tier 4) 5
二次悪性腫瘍のリスクは、放射線治療を受けていない患者で約20%であるが、放射線治療を受けた患者では40~50%とかなり高い。(Tier 3) 8
RB1遺伝子の病的変異を有する場合の、Rb発症の相対リスクやオッズ比に関する情報はない。(Tier 3) 8
表現度 RB1遺伝子には3つの表現型がある。片側性または両側性のRb、網膜細胞腫、または年齢による「正常な変性」以外に網膜の病変を認めない場合の3通りである。(Tier 3) 13
4. 介入の方法
介入の方法 専用の眼科検診によるサーベイランスは、Rbのリスクがあるすべての児に推奨されており、リスクのある児は高、中、低の3段階に層別化されている。サーベイランスは侵襲的ではないが、検査スケジュールは頻回で生涯にわたって続けられる。 1.4.5
Rb生存者における骨肉腫に対するWBMRIによるサーベイランスは、患者とその家族に心理的苦痛をもたらす可能性がある。 9
二次性の眼外悪性腫瘍の発生リスク増大や重大な副作用の発生を回避するため、代替手段がない場合を除いて、可能な範囲で放射線照射を避けることが推奨される。代替手段としては、経瞳孔温熱療法、レーザー光凝固術と凍結療法、化学療法、眼球摘出術が挙げられる。眼球摘出術は進行した眼内症例に対してのみ施行され、結果として摘出された眼の視力は完全に失われてしまう。使用された薬剤によるが、化学療法によって聴覚毒性、腎毒性、二次性非Rb悪性腫瘍、神経障害などが起こりうる。 1.5.6.14
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 腫瘍が小さい場合の早期診断は、生存率と視力転帰を最大にし、化学療法、眼球摘出術、放射線療法の必要性を減らす。家族歴があって網膜検査を定期的に受けているケースの場合には、しばしば生後1ヶ月で腫瘍が発見される。(Tier 2) 1.4
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 RB1遺伝子の検査法として直接シークエンス法が保険収載されているが、これによる遺伝子変異同定率は80~84%とされている。また、6~8%のケースでは13q14の欠失が見られ、保険適応となっているFISH法で検出可能である(欧米では染色体マイクロアレイ検査が主体)。プロモーターのメチル化異常や遺伝的モザイクのケースも一定頻度存在するとされ、検出・解釈をより困難にしている。 5.16

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