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日本版作成協力者:本田 明夏 服部 浩佳 

リ・フラウメニ症候群 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
LFS関連がん / がんサーベイランス 2 3C 2B 2 C 9CBB
LFS関連がん / 放射線治療の回避 2 3C 2B 2 B 9CBB

状態:リ・フラウメニ症候群 遺伝子:TP53
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 LFSは稀な腫瘍症候群であり、有病率は100,000人に1-9人と推定される。 1
臨床像(症候/症状) LFSはがん素因を有する症候群であり、発症年齢が若く、多発性に原発がんを生じるという特徴がある。
最も多くみられる腫瘍は、軟部組織肉腫、骨肉腫、閉経前乳がん、脳腫瘍、副腎皮質がんであり、これらがLFS関連がんの約70%を占める。他には大腸がん、胃がん、白血病がある。LFS家系において、男性乳がんの報告は稀である。
1-5
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) LFS関連がんは小児期あるいは青年期に好発する。女性の方が男性に比べ、より発症リスクが高く、平均発症年齢が若い(女性29歳、男性40歳)。がん発症リスクは30歳までにおよそ50%、60歳までに90%である。LFSの人は二つ以上の悪性腫瘍も発症しやすい。約57%の人が二つ目のがんを、38%が三つ目のがんを発症すると推測されている。複数のがんを発症する確率は、初発の診断時年齢が若いことに逆相関する。LFS関連がんとそれ以外のがんとの間に,若年発症である他に、明確な特徴の差はないが,LFSの乳がんは、LFSでないケースと比べてHER2陽性である場合が多いという報告がある。また、LFS乳がんの大部分がエストロゲンおよび/あるいはプロゲステロンホルモン受容体陽性である。LFSの全体的な予後は不明であり、発症する悪性腫瘍のタイプや重症度により異なる。 1-5
2. 予防的介入の効果
患者の管理 女性は自分の乳房に関心を持ち、何かしらの変化があれば直ちに医療者に報告すべきである。医療的な乳房検診の推奨については、ガイドラインにより見解が異なる。あるガイドラインでは、女性は20歳から、半年~1年ごとに医療機関での乳房検診を開始するよう推奨される。しかしながら、他のガイドラインでは、高リスク集団を対象とした単独のサーベイランス方法として、医療機関での乳がん検診と自己検診のいずれが有効であるのかについて、エビデンスの不足が指摘されている。(Tier2) 4,6
リスク低減策として、予防的な両側乳房切除術および卵巣摘出術が推奨されるが、TP53病的バリアントをもつ女性について、リスク低減切除手術の有効性を示す直接的なエビデンスはない。 ※TP53病的バリアントを有する女性について、リスク低減を目的とした手術は日本では一般的ではない。なお日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン(2018年版 Ver.4/2020年8月23日改訂)では、LFSにおけるリスク低減乳房切除術についての記載はされていない。 6, 7
患者には、がんの兆候や症状についての教育がなされるべきである。(Tier 2) 4
患者は特に頭痛、骨の痛み、腹部の不快感などの長引く症状や病気について、問題があればただちに主治医に相談すべきである。(Tier 3) 2
妊婦はがんの可能性のあるどんな症状についても、主治医に知らせるべきである。(Tier 4) 4
サーベイランス LFSのスクリーニングとマネジメントは複雑である。LFS患者は本症候群のマネジメントを専門とする施設でのフォローが推奨される。(Tier 4) 4
乳房MRIの年1回のサーベイランスは、20-49歳の女性には推奨されるべきであり、50-69歳の女性には考慮されるべきである。MRIが不適切あるいはMRI結果の解釈が困難である場合を除き、超音波検査およびマンモグラムによる乳房サーベイランスは推奨されない。TP53変異保持者のMRI乳房サーベイランスの有効性に関するエビデンスはない。 6
TP53遺伝子の生殖細胞系列変異に関連する他の多くのがんは、早期発見が難しい。したがって、追加の推奨は一般的なものとなる:稀ながんや二次がんを強く疑い、神経学的検査を含む全身の身体診察(6-12か月毎)、25歳からは2-5年毎の大腸内視鏡と上部消化管内視鏡検査(家系内で最も若い大腸がん発症年齢よりも5年前から開始する)、18歳から皮膚科診察(年1回)、血液検査(年1回)、全身MRI(年1回)、脳MRI(年1回)。家族歴によっては,さらなるサーベイランスの追加が推奨される。
11年間の前向き観察研究から、TP53変異保持者におけるサーベイランスプロトコル実施群と非実施群のアウトカムが報告された。40人がサーベイランスプロトコルを選択し、49人がサーベイランスを拒否した(19人はサーベイランス群へクロスオーバーしたため、計59人がサーベイランスを実施した)。サーベイランスでは生化学検査と画像検査(年1回のマンモグラフィ検査、年1回の脳MRI、年1回の迅速全身MRI、腹部および骨盤の超音波検査、大腸内視鏡検査)が実施された。平均32か月間 (IQR: 12-87)にわたるサーベイランスの結果、59人中19人(32%)において40個の無症候性の腫瘍が認められた。これらの腫瘍には悪性腫瘍、および、軽度もしくは前がん病変が含まれた。当初サーベイランスを拒否した49人のうち、43人(88%)に61個の症候性腫瘍が診断された。サーベイランスを受けてがんと診断された患者の、フォローアップ期間中(平均38か月、IQR:12-86)の生存率は84%(16人/19人)だったが、サーベイランスを選択せずがんと診断された患者における生存率は49%(21人/43人;平均フォローアップ期間46か月、IQR:22-72)だった。(p=0.012) 非サーベイランス群で死亡した全患者の死因はがんだった。5年間の全生存率はサーベイランス群(88.8%)の方が、非サーベイランス群(59.6%)と比べて良好だった。(p=0.0132) 別のメタアナリシスでは、13の前向きコホートにおける578人について、全身MRIの評価が行われた。このコホートでは、ベースラインスキャン時点では無症候であり、新たに診断される必要がない全参加者について、全身MRIがベースライン評価の一部として行われた。サンプル中7%にがんが認められたが、このうち83%はがんが限局し、根治療法が可能だった。(Tier2)
4,5
回避すべき事項 がんの治療目的での放射線被曝は他の方法が選択可能であれば回避すべきであり、診断目的の場合は正確さを損なわない範囲で可能な限り最小限にとどめるべきである。TP53病的バリアントをもつ人々について、治療後の照射野に二次がんが生じた12のケーススタディを含む、放射線に起因する腫瘍が報告されている。(Tier 2) 4
TP53の病的バリアント保持者は、日光への曝露、喫煙、他の既知あるいは疑いのある発がん物質を避けるよう助言されるべきである。TP53変異保持者について、喫煙者は非喫煙者と比べて肺がんのリスクが3.16倍(95%CI =1.48-6.78)になることが分かっている。 (Tier 3) 2
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝(AD)
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 LFSの特徴を示す家系の50-80%に、TP53遺伝子の生殖細胞系列変異が認められる。(Tier 3) 一般集団における生殖細胞系列のTP53病的バリアントの頻度は、米国で約1/5,000~1/20,000、英国では1/10,000~1/25,000と推定される。最近では、本邦の東北メディカル・メガバンクのデータベース (2KJPN) において0.27%、米国National Cancer Instituteでは0.2% (約1/500)と、従来考えられていたよりも高頻度であったことが報告されている。(Tier 3) 1,2,4, 8, 9
浸透率 LFSは、がんの生涯発症リスクが高く、高い浸透率を示す。 米国立がんセンターのLFS調査(n=286)の解析から、生涯累積がん発症率はほぼ100%であることが示された。さらに本研究において、70歳までの累積発症率が次のように推定されている。 女性:乳がん54%、軟部組織肉腫15%、脳腫瘍6%、 骨肉腫5% 男性:軟部組織肉腫22%、脳腫瘍19%、骨肉腫11% (Tier 3) 4
TP53病的バリアントの推定がんリスクは、45歳までに約60%、70歳までに約95%とされる。(Tier 3) 4
生涯のがん発症リスクは、女性がほぼ100%に対し、男性は73%である。(Tier 3) 1,2,5
相対リスク 全体の腫瘍発生の相対リスクは不明だが、腫瘍特異的な相対リスクと95%信頼区間は以下の通りである。 骨: 107 (49-203)、結合組織: 61 (33-102)、脳: 35 (19-60)、膵臓: 7.3 (2-19)、乳房: 6.4 (4.3-9.3)、大腸: 2.8 (1-6)、肝臓: 18 (2.1-64). (Tier 3) 2,5
表現度 LFS患者の、発症年齢、腫瘍部位、腫瘍の数やタイプは非常にばらつきがある。(Tier 3) 2
4. 介入の方法
介入の方法 本レポートにおける介入には、標的臓器を摘出する予防的手術、詳細なサーベイランスが含まれる。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 患者は日常的な臨床モニタリングや通常の定期検査ではなく、詳細なサーベイランスプロトコルを受けるべきである。(Tier 2) 4
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 本邦におけるTP53遺伝学的検査は保険適用ではない。 複数の検査会社が単独あるいは多遺伝子パネル検査に含める形で提供しており、自費診療で使用できる。

参考文献
1. Li-Fraumeni syndrome. Orphanet encyclopedia, http://www.orpha.net/consor/cgi-bin/OC_Exp.php?lng=en&Expert=524
2. K Schneider, K Zelley, KE Nichols, J Garber. Li-Fraumeni Syndrome. 1999 Jan 19 [Updated 2013 Apr 11]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2019. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1311
3. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. LI-FRAUMENI SYNDROME 1; LFS1. MIM: 151623: 2016 Jun 24. World Wide Web URL: http://omim.org.
4. Daly MB, Pilarski R, Berry M, Buys SS, Farmer M, Friedman S, et al. Genetic/Familial High-Risk Asessment: Breast and Ovarian. National Comprehensive Cancer Network (NCCN). (2017) Website: www.nccn.org
5. McBride KA, Ballinger ML, Killick E, Kirk J, Tattersall MH, Eeles RA, Thomas DM, Mitchell G. Li-Fraumeni syndrome: cancer risk assessment and clinical management. Nat Rev Clin Oncol. (2014) 11(5):260-71.
6. Classification and care of people at risk of familial breast cancer and management of breast cancer and related risks in people with a family history of breast cancer. NICE. (2013) Website: https://www.nice.org.uk/guidance/cg164/chapter/recommendations
7. 日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン
http://jbcs.gr.jp/guidline/2018/index/
8. de Andrade KC, Mirabello L, Stewart DR, Karlins E, Koster R, Wang M, Gapstur SM, Gaudet MM, Freedman ND, Landi MT, Lemonnier N, Hainaut P, Savage SA, Achatz MI. Higher-than-expected population prevalence of potentially pathogenic germline TP53 variants in individuals unselected for cancer history. Hum Mutat. (2017) 38(12):1723-1730.
9. Yamaguchi-Kabata Y, Yasuda J, Tanabe O, Suzuki Y, Kawame H, Fuse N, Nagasaki M, Kawai Y, Kojima K, Katsuoka F, Saito S, Danjoh I, Motoike IN, Yamashita R, Koshiba S, Saigusa D, Tamiya G, Kure S, Yaegashi N, Kawaguchi Y, Nagami F, Kuriyama S, Sugawara J, Minegishi N, Hozawa A, Ogishima S, Kiyomoto H, Takai-Igarashi T; ToMMo Study Group, Kinoshita K, Yamamoto M. Evaluation of reported pathogenic variants and their frequencies in a Japanese population based on a whole-genome reference panel of 2049 individuals. J Hum Genet. (2018) 63(2):213-230.