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日本版作成協力者:島田 咲 太田 有史 

神経線維腫症1型 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
悪性末梢神経鞘腫瘍/教育目的でNF1に精通した医療者に相談する 2 2C 0D 3 C 7CDC
乳癌/サーベイランス 2 2C 2B 3 A 9CBA

状態:神経線維腫症1型 遺伝子:NF1
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 神経線維腫症1型(NF1)は、出生時の発症率が2,500~3,000人に1人、有病率が3,500~5,000人に1人とされる。 1, 2, 3,4
本邦の患者数は約40,000人と推定されており、出生約3,000人に1人の割合で生じる。 J1
臨床像(症候/症状) NF1の特徴的な症状として、多発性カフェ・オ・レ斑、腋窩および鼠径部の雀卵斑(そばかす)様色素斑、多発性皮膚神経線維腫(良性の末梢神経の腫瘍)、虹彩結節(Lisch結節,過誤腫)、長管骨および蝶形骨翼の特徴的な骨形成不全などが挙げられる。大半は知能正常であるが、少なくとも50%に学習障害が見られる。一般的ではないがより深刻な症状として、上記形態以外の腫瘍(例:叢状神経線維腫、悪性末梢神経鞘腫瘍)、眼(例:視神経膠腫)、認知(例:知的障害)、神経(例:発作、偏頭痛)、筋骨格(例:側弯症)、血管/心臓(例:高血圧)などが現れることもある。
NF1を有する女性は、50歳以前に乳癌を発症するリスクが著明に上昇し、そのリスクは一般人口の少なくとも3倍と推定されている。また、NF1を有する人は、他の多くの一般的ながんのリスクも高いと考えられる。
1, 2, 3
4, 5, 6
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) NF1患者は6歳までに約90%、8歳までに97%が診断基準を2つ以上満たし、20歳までに全員が診断基準を満たす。最も一般的な症状は、多数のカフェ・オ・レ斑である。NF1患者の多くは、皮膚症状と虹彩小結節のみを発症するが、より重篤な合併症の頻度は年齢とともに増加する。骨病変は先天的であり、カフェ・オ・レ斑は出生時に存在し、生後数年で数が増加する。皮膚および皮下の孤立性神経線維腫は小児期後期以前にはまれである。成人の神経線維腫は,発生時期に差はあるものの生涯を通じて発生し、その総数も数個から数千個と差がある.多くの女性において、妊娠中の神経線維腫が急激に増加、増大がみられる。叢状神経線維腫は通常、数年かけてゆっくりと成長するが、特に幼児期に良性病変の急速な成長が見られることがある。大半が無徴候性だが、外見上の問題を引き起こし、機能低下や、生命の危険につながる可能性もある。悪性末梢神経鞘腫瘍は、NF1患者では若年で発生する傾向があり、青年期または成人期初期の発生がしばしばみられる。視神経膠腫は失明に至る可能性があり、一般的に6歳以前に視力低下または眼球突出を伴って発症する*が、小児期または成人期まで無症状のこともある。視神経膠腫の症状進行は遅く、退縮することもある。 乳癌の有意なリスク上昇は30歳から始まり、50歳を過ぎると低下する。50歳を過ぎると一般人口のリスクと有意な差はない。 *日本版注:眼球突出をきたした場合は眼窩内に神経線維腫を発生した場合あるいは蝶形骨翼異形性が顕著な場合であり、視神経膠腫が眼球突出を伴って発症した症例は日本人ではみられない)
NF1患者の平均余命の中央値は、一般人口と比較して約8-15年短く、悪性腫瘍や血管障害などが早期の死因となっている。米国の死亡証明書の調査では、平均死亡年齢は54.4歳、中央値は59歳と推定されている。疾患の整容、医療、行動、および社会的特徴のすべてが、NF1患者の生活の質の低下に繋がる可能性がある。
1,2,3,4,5,6,7
2. 予防的介入の効果
患者の管理 NF1と診断された個人の疾患の状況とニーズを明らかにするために、以下の評価が推奨される。
- NF1の特徴に特に注意を払った病歴
- 皮膚、骨格、心血管系、および神経系に特に注意を払った診察
- 虹彩の細隙灯検査を含む眼科的評価
- 臨床的に明らかな徴候または症状に基づいて適応となるその他の検査
- 遺伝医学的相談 (Tier 4)
3
特徴的病変を予防したり、元に戻したりする医学的治療法はない。そのため、治療可能な合併症の早期発見と迅速な治療(例:悪性末梢神経鞘腫瘍の摘出)を行うために、年齢に応じた症状の観察と,患者教育が医学的管理の中心となる。NF1患者の医学的管理は、複数の医療分野の専門家が集まる専門的な「神経線維腫症クリニック」で行われることが多い。NF1患者は、何らかの異常な症状がある場合、それがNF1と関係しているかどうかを確認するように推奨される必要がある。16-25歳の若年成人は、人生の中で脆弱な段階にあり、NF1およびその起こりうる合併症についての教育が必要である。特に、神経線維腫は思春期後期に発症することが多いため、疾患の遺伝に関するカウンセリングや心理的なサポートが推奨される。(Tier 2) 1, 2
認知機能障害があったとしても、その認知機能障害は成人期にも安定している。読み書きや計算能力に障害がある場合、受療行動や病状に関する情報の理解度が低下するため、それらの能力の評価が必要である。成人向けの読み書き教室を紹介することが適切な場合もあるかもしれない。クリニック訪問後は、可能であれば電話連絡を行い、本人がケアプランを理解しているかどうかを確認すべきである。(Tier 2) 2
妊娠中の女性をケアする際には、神経線維腫が増大や増加する可能性があるため、産科医と神経線維腫症の臨床医の緊密な連携が重要である。高血圧の評価が必要である。(Tier 2) 2
成人のNF1患者は、一般的に遺伝医や神経内科医が運営するNF1専門クリニックを毎年受診する機会が提供されるべきである。20代半ば以降のサーベイランスは、患者の希望と疾患の重症度により異なる。軽症の成人は、合併症のリスクがずっと低い。患者がNF1専門クリニックに通わないことを選択した場合、遭遇する可能性のある問題について患者自身が十分に理解しておく必要がある。無症状の成人に最低限必要なことは、異常な症状、特に悪性末梢神経鞘腫瘍や脊髄圧迫の臨床的特徴に気づくことと、血圧測定である。本態性高血圧症の治療は、一般の人と同じである。(Tier 2) 1, 2
サーベイランス 女性は30歳から年1回のマンモグラフィを受けることが推奨され、30-50歳からは造影剤を用いた乳房MRIも検討する。現時点では、50歳以降の乳癌発症リスクの上昇を示唆するデータはない。フィンランドで行われたNF1患者1,404人を対象とした集団ベースの研究では、NF1と乳癌発症リスクとの間に有意な関連が認められた(SIR:3.04、95% CI:2.06-4.31、p<0.001)。過剰発生率が最も高かったのは40歳未満の女性であった(SIR:11.10、95% CI:5.56-19.50、p<0.001)。イングランドでも乳癌発症リスクの増加が認められ(SIR:3.5、95% CI:1.9-5.9)、50歳未満の女性でリスクが高かった(SIR:4.9、95% CI:2.4-8.8)。また、50歳までの乳癌発症の累積リスクは8.4%と推定された。イングランドの女性を対象とした症例対象研究によると、相対リスク推定値は、30-39歳の女性(RR:6.5、95% CI:2.6-13.5)と40-49歳の女性(RR:4.4、95% CI:2.5-7.0)で高く、しかし、その後50-59歳の女性では低下し(RR:2.6、95% CI:1.5-4.2)、年齢が上がるにつれて低下し続けた(60-69歳ではRR:1.9、95% CI:1.0-3.3、70-79歳ではRR:0.8、95% CI:0.2-2.2)。NF1遺伝子変異を有する女性に対するリスク低減乳房切除術の有益性に関するデータはない。したがって、これらの患者に対してリスク低減手術は推奨されないが、家族歴に基づいて検討してもよい。(Tier 2) 5
NF1遺伝子変異を有する女性の乳癌スクリーニングの有効性に関する研究は確認されなかった。乳癌の家族歴がある50歳未満の女性において、マンモグラフィによるサーベイランスが疾患特異的な延命効果をもたらすことを示唆するガイドラインがある(エビデンスレベル低).マンモグラフィによるサーベイランスによって乳癌と診断された場合、乳癌による死亡リスクが低下することが観察研究で示されている(リードタイム調整済みHR 0.24 [95% CI 0.09-0.66])。予測モデルでは、検診を受けた人の10年後の乳癌死亡率はRR 0.80(95% CI 0.66-0.96)と減少する。後ろ向き研究では、乳癌と診断されたBRCA1/2病的バリアント保有者において、集中的なマンモグラフィによるサーベイランスプログラムによって全死亡率が低下することが示された(HR 0.44 [95% CI 0.25-0.77])。(Tier 1) 8
回避すべき事項 悪性腫瘍のリスクがあるため、放射線治療は禁忌である。(Tier 2) 2
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝 3
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 NF1の突然変異率(~1/10,000)は、ヒトのあらゆる遺伝子の中で最も高い値を示す。罹患者の半数は、新規の突然変異によりNF1を発症する。NF1の全症例がNF1の病的バリアントと関連していることから、病的バリアントの頻度は疾患の有病率と同様であると予想される。(Tier 3) 3
浸透率 小児期以降はほぼ完全浸透である。(Tier 4) 3
主要な臨床症状の発現頻度
- カフェ・オ・レ班 >99%
- 皮膚線状の(コメント:皮膚線状とは?)雀卵斑(そばかす)様色素斑 85% - 虹彩小結節 90-95%
- 皮膚神経線維腫 >99%
- 叢状神経線維腫 30%(可視)-50%(画像上)
- 悪性末梢神経鞘腫瘍 2-5%(生涯リスクは8-13%)
- 側弯症 10%
- 脛骨の偽関節 2%
- 腎動脈狭窄症 2%
- 褐色細胞腫 2%
- 重度の認知機能障害(IQ70未満) 4-8%
- 学習上の問題 30-60%
- てんかん 6-7%
- 視路性グリオーマ 15% (症状のあるものは5%のみ)
- 大脳神経膠腫 2-3%
- 蝶形骨翼異形成 <1
- 中脳水道狭窄症 1.5% (Tier3)
2
本邦におけるNF1患者にみられる主な症候のおおよその合併率と初発年齢
症候 合併頻度 初発年齢
カフェ・オ・レ斑95% 出生時
皮膚の神経線維腫95% 思春期
神経の神経線維腫20% 学童期
びまん性神経線維腫10% 学童期
悪性末梢神経鞘腫瘍2% 30 歳前後が多い(10-20% は思春期頃)
雀卵斑様色素斑95% 幼児期
視神経膠腫7-8% 小児期
虹彩小結節80% 小児期
脊椎の変形10% 学童期
四肢骨の変形・骨折3% 乳児期
頭蓋骨・顔面骨の骨欠損5% 出生時
知的障害(IQ<70) 6-13% 幼児期
限局性学習症20% 学童期
注意欠如多動症40-50% 幼児期
自閉スペクトラム症20-30% 幼児期
偏頭痛25% 学童期
てんかん6-14% 小児期
脳血管障害4% 小児期 (Tier2)
J2, J3
乳癌発症の累積リスクは、50歳までに8.4%と推定される。(Tier 3) 5
相対リスク あるコホートでは、悪性新生物または良性中枢神経系腫瘍の相対リスクは4.0と推定された。別のコホートでは、悪性末梢神経鞘腫瘍の発生の相対リスクは113であった。(Tier 3) 7
表現度 NF1は、極めて高い臨床的変動性を示すことを特徴とする.非血縁者間や同一家系内の罹患者間の違いのみならず、一人のNF1患者においても年齢によって症状の変化を示す。(Tier4) 1,3
4. 介入の方法
介入の方法 NF1を持つ人の管理には、妊娠モニタリングの強化、高血圧の測定、乳癌サーベイランスの強化などが推奨されている。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 表現型の高い多様性のため、NF患者の臨床管理は複雑であり、正確な診断が妨げられることがある。(Tier 3) 1
NF1患者の約90%は6歳、97%は8歳、そして全員が20歳までに2つ以上の診断基準を満たすようになる。(Tier4) 4
NF1罹患児の親が健康上の問題がほとんどない分節型/モザイク型のNF1であると判明することがある。(Tier 4) 2
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 自費診療で可。本邦で行われた次世代シークエンサーを用いた変異の検出率は90%以上と報告されている。 J4

参考文献
1.Prevention and control of neurofibromatosis: memorandum from a joint WHO/NNFF meeting. Bull World Health Organ. (1992) 70(2):173-82.
2.Ferner RE, Huson SM, Thomas N, Moss C, Willshaw H, Evans DG, Upadhyaya M, Towers R, Gleeson M, Steiger C, Kirby A. Guidelines for the diagnosis and management of individuals with neurofibromatosis 1. J Med Genet. (2007) 44(2):81-8.
3.JM Friedman. Neurofibromatosis 1. 1998 Oct 02 [Updated 2014 Sep 04]. In: RA Pagon, MP Adam, HH Ardinger, et al., editors. GeneReviewsR [Internet]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2021. Available from: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1109
4.Radtke HB, Sebold CD, Allison C, Haidle JL, Schneider G. Neurofibromatosis type 1 in genetic counseling practice: recommendations of the National Society of Genetic Counselors. J Genet Couns. (2007) 16(4):387-407.
5.Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian. Publisher: National Comprehensive Cancer Network. (2016) Accessed: 2017-04-26. Website: https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp#genetics_screening
6.Gutmann DH, Aylsworth A, Carey JC, Korf B, Marks J, Pyeritz RE, Rubenstein A, Viskochil D. The diagnostic evaluation and multidisciplinary management of neurofibromatosis 1 and neurofibromatosis 2. JAMA. (1997) 278(1):51-7.
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8.2013 Jun.
J1. 高木廣文,稲葉 裕,高橋月容ほか:レックリングハウゼン病と結節性硬化症の2 次調査の重複率と全国患者数,厚生省特定疾患神経皮膚症候群調査研究 昭和62 年度研究報告書.東京:1988; 11―15.
J2. Niimura M: Neurofibromatosis in Japan. In: Ishibashi Y, Hori Y. eds. Tuberous sclerosis and neurofibromatosis: epidemiology, pathophysiology, biology and management, Amsterdam: Excerpta Medica, 1990; 22―31.
J3. Hirabaru K, Matsuo M: Neurological comorbidity in children with neurofibromatosis type 1, Pediatr Int, 2017; doi: 10.1111/ped.13388.
J4 . Muraoka R, Takenouchi T, Torii C, et al: The use of next-generation sequencing in molecular diagnosis of neurofibromatosis type 1: a validation study, Gent Test Mol Biomarkers, 2014; 18: 722―735.