ClinGen 最新バージョン 1.1.4 (2022.2.9)
日本版対応バージョン 1.1.2 (2021.10.18)
日本版作成協力者:鹿田 佐和子 山口 達郎 

POLE・POLD1関連大腸がん(別名:Polymerase Proofreading-Associated Polyposis: PPAP (ポリメラーゼ校正関連ポリポーシス)) サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
POLE 大腸がん / ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査 2 2B 3B 2 B 9BBB
POLD1 大腸がん / ポリープ切除を伴う大腸内視鏡検査 2 3B 3B 2 B 10BBB

状態:POLE・POLD1関連大腸がん 遺伝子:POLE, POLD1
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 POLEとPOLD1の病的バリアントに関連する大腸がん(CRC)症例の有病率は不明である。CRC症例の3~5%は浸透率の高い生殖細胞系列遺伝子の病的バリアントが原因であると推定されており、そのうちPOLEやPOLD1の病的バリアントとの関連はごく一部と考えられる。家族性/早期発症のCRCとポリポーシスの858症例を対象とした研究で、POLEとPOLD1の病的バリアントがそれぞれ1症例ずつ同定された。 1,2
臨床像(症候/症状) POLEとPOLD1に関連したCRCに対する疾患感受性は、大腸ポリポーシス、腺腫、癌の易罹患性として特徴づけられる。入手可能なデータによると、本疾患の表現型は、軽度または腺腫性に乏しい大腸ポリポーシスを特徴とする(検査時で0~68個の腺腫が報告されている)。腫瘍の組織学的特徴は目立たないものもあれば、マイクロサテライト不安定性を示すものもある。表現型はリンチ症候群や軽症型の家族性大腸ポリポーシスと重複が認められる。また、保因家系に関する報告が増加するにしたがって、子宮内膜、卵巣、膵臓、脳、小腸など、結腸外に発生するがんのスペクトルが拡大していることが指摘されている。しかし、これらのがんとの関連性に関するエビデンスはまだ限定的である。したがって、本報告書の推奨事項はCRCに焦点を当てている。 1,2,3,4
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) POLEの病的バリアントを持つ47人(20家系)を対象とした研究では、30人がCRCを発症し、平均発症年齢は40.7歳であった。また、POLD1の病的バリアントを持つ22人(8家族)では、13人がCRCを発症し、平均発症年齢は35.9歳であった。 1,5
2. 予防的介入の効果
患者の管理 患者管理に関する推奨事項はない。
サーベイランス 大腸内視鏡検査は、20~30 歳から 1~3 年ごとに実施すべきであり、その間隔はポリープの状況に応じて決定し、大腸内視鏡検査でポリープの管理ができなくなった場合には手術を検討すべきである。サーベイランスの推奨を裏付けるデータは現在蓄積中であり、大腸内視鏡検査の計画は、患者の希望や新たに得られる知見を考慮すべきである。(Tier 2) 5
POLEおよびPOLD1に関連したCRCに対する疾患感受性を有する人における大腸内視鏡検査の有効性に関するエビデンスは確認されなかった。しかし、リンチ症候群や家族性大腸ポリポーシス(FAP)の人がスクリーニングを受けると、CRCのリスクが低下することを示すエビデンスがある。リンチ症候群の人を対象としたCRC罹患率に関するシステマティックレビューでは、6つの研究のうち5つの研究で、サーベイランスにより有意に低下することが示された(オッズ比(OR):0.11~0.35)が、6つのうち1つの研究では有意な結果ではなかった(OR=0.93)。また、CRC関連の死亡率に関する4つの研究のうち2つの研究では、サーベイランスにより有意に減少した(OR:0.04~0.17).ただし,4つの研究のうち3つの研究では、サーベイランス群での死亡が観察されていない。FAP患者では、CRC罹患率に関する27件の研究のうち26件で、スクリーニングを受けた患者は、スクリーニングプログラム以外でポリポーシス/CRCの症状を呈した患者と比較して、サーベイランスにより統計的有意に減少することが示された(OR:0.01~0.37)。CRC関連の死亡率に関する8つの研究では、スクリーニングを受けた群(N=1028)と症状のある群(N=947)、有意な減少(OR:<0.01~0.16)が認められた。2つの研究では、追跡期間は2~4年と短かったものの、サーベイランス中にCRC関連の死亡を完全に予防できるというエビデンスが得られた。(Tier 1) 6,7
回避すべき事項 推奨事項なし。
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 常染色体優性遺伝形式
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 POLD1やPOLEの病的バリアントの一般集団における頻度に関する情報はない。
浸透率または相対リスク POLEまたはPOLD1の生殖細胞系列病的バリアントを有する家系のシステマティックレビューで、家系内の確認バイアスを調整した分離比分析に基づいてCRCの累積リスクをモデル化されている。これら家系のすべての人が遺伝子検査を受けたわけではない。POLEの病的バリアントを持つ人の70歳までのCRCの累積リスクは、男性で28%(95%CI:10-42%)、女性で21%(95%CI:7-33%)と推定された。特にc.1270C >G, p.Leu424Valのバリアントを持つ人(19家族)については、70歳までにCRCを発症するリスクは、男性で97%(95%CI:85-99%)、女性で92%(95%CI:75-99%)と推定された。POLD1 の病的バリアントを持つ人の 70 歳までの CRC の累積リスクは,男性で 90%(95% CI: 33~99%),女性で 82%(95% CI: 26~99%)と推定された.(Tier 1) 1
全参加者の遺伝子型情報を用いた小規模な研究では、POLEの病的バリアントを持つ47人(20家系)のうち、30/47人(63.8%)にCRCが確認された。また、POLD1病的バリアントを持つ22人(8家族)のうち、13/22人(59.1%)にCRCが確認された。(Tier 5) 5
一般集団と比較して、POLEの病的バリアントを持つ人のCRC発症のハザード比(HR)は、12.2(95%CI:7.35-20.2)と推定され、50歳未満では38.7(95%CI:17.5-85.4)、50歳以上では8.21(95%CI:4.24-15.9)と、年齢とともに減少した。POLD1の病的バリアントを持つ人においては、推定HRは87.2(95%CI:15.3-495)で、50歳以前では201(95%CI:62.0-651)、50歳以上では3.34(95%CI:0.22-50.1)であった。性別によるハザード比の違いは確認されなかった。(Tier 1) 1
表現度 表現度に関する情報は確認できていない。
4. 介入の方法
介入の方法 推奨される介入方法は、ポリペクトミーを伴う大腸内視鏡検査である。
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 CRCのスクリーニングを開始するのに推奨されている年齢は、現在一般の人々に推奨されている年齢よりも早い。したがって、POLEとPOLD1に関連したCRC疾患感受性を持つ人は、一般的なスクリーニングが開始される前にCRCを発症する可能性があると考えられる。
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 保険適応外 Multi-gene panel検査にて検査可能

参考文献
1. Buchanan DD, Stewart JR, Clendenning M, Rosty C, Mahmood K, Pope BJ, Jenkins MA, Hopper JL, Southey MC, Macrae FA, Winship IM, Win AK. Risk of colorectal cancer for carriers of a germ-line mutation in POLE or POLD1. Genet Med. (2017)
2. Syngal S, Brand RE, Church JM, Giardiello FM, Hampel HL, Burt RW. ACG clinical guideline: Genetic testing and management of hereditary gastrointestinal cancer syndromes. Am J Gastroenterol. (2015) 110(2):223-62; quiz 263.
3. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. COLORECTAL CANCER, SUSCEPTIBILITY TO, 10; CRCS10. MIM: 612591: 2018 Apr 06. World Wide Web URL: http://omim.org.
4. Online Medelian Inheritance in Man, OMIMR. Johns Hopkins University, Baltimore, MD. COLORECTAL CANCER, SUSCEPTIBILITY TO, 12; CRCS12. MIM: 615083: 2018 Mar 13. World Wide Web URL: http://omim.org.
5. Bellido F, Pineda M, Aiza G, Valdes-Mas R, Navarro M, Puente DA, Pons T, Gonzalez S, Iglesias S, Darder E, Pinol V, Soto JL, Valencia A, Blanco I, Urioste M, Brunet J, Lazaro C, Capella G, Puente XS, Valle L. POLE and POLD1 mutations in 529 kindred with familial colorectal cancer and/or polyposis: review of reported cases and recommendations for genetic testing and surveillance. Genet Med. (2016) 18(4):325-32.
6. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Colorectal (version 1.2018). Publisher: National Comprehensive Cancer Network,. (2018) Website: https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/genetics_colon.pdf
7. Barrow P, Khan M, Lalloo F, Evans DG, Hill J. Systematic review of the impact of registration and screening on colorectal cancer incidence and mortality in familial adenomatous polyposis and Lynch syndrome. Br J Surg. (2013) 100(13):1719-31.