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日本版作成協力者:井本逸勢 

Fabry病 サマリーレポート


結果/介入 重症度 浸透率 有効性 介入の程度
とリスク
アクセス性 スコア
心血管疾患 (男性)/ 酵素補充療法 2 2C 2A 2 B 8CA-B
心血管疾患 (女性) / 酵素補充療法 2 2C 2A 2 B 8CA-B
脳血管疾患 (男性) / 酵素補充療法 2 2C 2A 2 B 8CA-B
脳血管疾患 (女性) / 酵素補充療法 2 2C 2A 2 B 8CA-B
末期腎疾患(男性) / 酵素補充療法 2 2C 2A 2 B 8CA-B
末期腎疾患(女性) / 酵素補充療法 2 1C 2A 2 B 7CA-B
疼痛発作(男性) / 酵素補充療法 1 3C 2A 2 B 8CA-B
疼痛発作(女性) / 酵素補充療法 1 3C 2A 2 B 8CA-B

状態:Fabry病 遺伝子:GLA
項目 エビデンスに関する説明 参考文献
1.病的アレルを有する人の健康への影響
遺伝性疾患の有病率 Fabry病の頻度は、従来5万―11万7千人に1人と推測されてきたが、最近では1,600-3,100人に1人と推測する報告もある。これは、最近見出された遅発型と古典型の比が11対1からなるとする、より広い表現型スペクトラムを反映していると考えられる。 1, 2
臨床像(症候/症状) ヘテロ接合体の女性は通常、より軽度でより多様な症状を示す。さらに、1%を超えるα-Gal A活性を有する男性は古典型より後期に発症し、そして心亜型、腎亜型、または脳卒中もしくは一過性虚血性発作として現れる脳血管疾患のいずれかを発症し得る。心亜型の男性および女性は、左心室肥大(LVH)、僧帽弁閉鎖不全、心筋症および不整脈を示し、タンパク尿を伴うが末期腎不全(ESRD)を伴わない。腎亜型は、典型的には古典型ファブリー病にみられる皮膚または疼痛の症状なしにESRDに至る。 1-10
自然歴(重要なサブグループおよび生存/回復) 古典型の発症は、一般的に小児期(通常4?8歳)または青年期である。ほとんどの男性患者は中年までに心疾患や脳血管疾患を発症するが、ESRDは通常30歳代から50歳代までに発症する。ヘテロ接合体の女性は、典型的には男性よりも発症年齢は遅い。稀に、ヘテロ接合体女性はほぼ無症状で通常の寿命を全うする場合や、古典型男性患者と同じくらい深刻な症状を呈する場合もある。ファブリー病患者は全体として一般集団と比較し生活の質(QOL)が低い。腎不全と心不全は主要症候であり、一般集団と比較して罹患男性(50?57歳)および女性(70?72歳)の寿命短縮の原因である。男女の中で最も一般的な死因は心血管疾患であり、大部分の患者は腎代替療法を受けた既往を持ち心血管疾患で死亡している。透析と腎移植が施行できる以前は、古典型罹患男性は、発症後10年間の早い時期に腎不全により死亡した。遅発型の非定型変異を有する患者は、一般に人生のほとんどが無症候性である。心亜型患者は、一般的に60歳から80歳の間に発症し、多くが肥大型心筋症として診断されている。腎亜型患者の発症年齢は通常25歳以降である。 1,2,3,6
2. 予防的介入の効果
患者の管理 患者は多職種専門チームによるベースライン評価を受けるべきである。評価には、生活の質、α-Gal Aレベルの測定、および腎臓、心臓、神経、耳鼻咽喉科、眼科、肺、胃腸、および筋骨格系の身体的および心理学的検査が含まれるべきである。(Tier 2) 6-9
ベースラインデータとすべてのフォローアップデータは中央レジストリに転送されるべきである。(Tier 2) 7,9
実際には、ヘミ接合体でも酵素補充療法(ERT)の使用には大きなばらつきがある。症状がなくても若い年齢で治療を開始する患者もいれば、最終的な臓器障害が明らかになるまで待つ患者もいる。 ERTを開始するという決定は、患者の家族と連携して管理する代謝専門医の臨床判断に従って行われるべきである。(Tier 2) 4,6,7-9,10
ファブリー病に対するERT使用に関して発表されている試験は限定的である。 ERTのRCTの系統的レビューでは、351人の患者を対象とした9件の研究について報告されているが、これらの研究の多くは、代謝されていないGL-3レベルに対するERTの効果についてのみ報告されている。 2件の試験(n = 39)では血漿GL-3濃度に統計的有意差は見られず、1件の試験(n = 24)ではアガルシダーゼαとプラセボで治療した患者間で腎機能に統計的差異は見られなかった (6ヵ月までのフォローアップ)。アガルシダーゼ βについても同様の結果が見られた。しかし、1つの試験(n = 26)は疼痛に統計的有意差を見いだし、プラセボと比較してアガルシダーゼαを支持した。 アガルシダーゼαの死亡率または心/脳血管疾患への影響に関する試験は報告されていない。 アガルシダーゼ βの1つの試験(n= 82)は、死亡、腎機能、または18ヶ月にわたる心臓もしくは脳血管疾患の症状または合併症に差がないことを見出した。(Tier 1) 2
ERTに関連する文献は大部分が、規制当局のレジストリに登録されたものである。 系統的レビューおよびプール分析には、平均3.8年以上フォローした15,305人の参加者を含む77件のコホート研究が含まれるが、これらの研究のうち39件のデータしかプールできなかった。 これらのコホート内では、参加者の66%が男性で、平均年齢は35歳であった。 大部分のコホートでは、表現型(古典的/非古典的)は報告されていない。一次分析における全死亡率は未治療患者(10.8%)、アガルシダーゼ α(9%)、アガルシダーゼ β(4.4%)の順で高かったが、グループ間に有意差はなかった。 未治療の患者と比較して、アガルシダーゼ βにより治療された患者は、腎臓合併症(6%対21%)、心血管合併症(7%対26%)、および脳血管合併症(3.5%対17.8%)を有する割合が統計的に有意に低かった。 アガルシダーゼ αと未治療患者との間に有意差はなかった。(Tier 1) 11
試験研究と観察研究について、別々の系統的レビューでも、患者のQOLに対するERTの効果について決定的な結論は得られていない。(Tier 1) 3
血管イベントのリスクが高いため、他の血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、真性糖尿病、体重増加)は積極的に管理する必要がある。(Tier 2) 6,7
脳卒中のリスクはファブリー病患者で上昇する。 あるコホート研究では、33人のファブリー病患者のうち、24%が29歳までに少なくとも1回脳卒中を患っていることがわかった。脳卒中リスクを減らすために、アスピリンは男性で30歳、女性で35歳から開始を検討してもよい。 ビタミンB 12、B 6、C、および葉酸の充分な摂取を促すべきである。(Tier 2) 6
サーベイランス 患者は、腎臓、心臓、神経学、耳/鼻/のど、眼科、肺、胃腸および筋骨格系を含む全身の診察および心理学的検査を含む定期的な観察を受けるべきである。定期観察の種類と頻度は個々の患者の症状によっても異なる。(Tier 2) 6-9
家族の疾患管理 家族管理に関する勧告は提示されていない。
回避すべき事項 血管イベントの危険性が高いため、患者は喫煙を控えるべきである。(Tier 2) 6,7
α-ガラクトシダーゼAの細胞レベルへの潜在的な影響を考えると、amiodarone(抗不整脈薬)はファブリー病患者に禁忌である。しかし、有害な影響の証拠はほとんどなく、不整脈患者における相対的な利益を考慮する必要がある。 (Tier 3) 1
3. 健康危害が生じる可能性
遺伝形式 X連鎖性
遺伝子変異(病的バリアント)の頻度 ヨーロッパと台湾の新生児スクリーニング集団における6件の研究を合わせた結果に基づくと、GLAにバリアント(VUSも含む)がある新生児の有病率は、約0.04%である。(Tier 1)
浸透率または相対リスク 心合併症の発生率は、非古典型心亜型ファブリー患者と古典型ファブリー病患者とで同等である。(Tier 3) 1
Fabry Registry,およびFabry Outcomes Studyでは、最も頻繁に見られる症状(男性62-76%、女性41-64%)である疼痛の発症年齢(中央値)は、男性で11-13歳、女性で19-23歳と報告されている。 1
以下の臨床事象がレジストリで報告された。

腎透析または移植:
男性:男性の13-17%
女性:女性の1-2%

心血管イベント(不整脈、心筋梗塞、狭心症、うっ血性心不全、重大な心臓手術)
男性:19%
女性:14%

脳卒中
男性:7%
女性:5%

脳血管イベント(脳卒中、一過性虚血発作、長期にわたる可逆性虚血性神経障害):
-男性:12-15%
-女性:11.5-27%(Tier 3)

相対リスクに関する情報は確認されていない。
1
表現度 ファブリー病は、重度の古典型から、多くの古典的特徴(例えば、皮膚病変、発汗異常)をしばしば欠く亜型まで様々な表現型スペクトラムを含む。(Tier 3) 1
発症年齢および疾患進行の年齢には、家族内および家族間でばらつきが存在する。(Tier 3) 4
4. 介入の方法
介入の方法 患者管理には、非侵襲的な多臓器系の医学的スクリーニングと、ERT(隔週注入)の将来的な使用の検討が含まれる。 ERTは、約10%で急性輸液反応が報告されているが、主には軽度から中程度の発熱および一過性の悪寒であり、忍容可能な傾向にある。 登録データのプール分析の中で、報告された有害事象の発生率はアガルシダーゼ αで31%、アガルシダーゼ βで34%であった。 しかしながら、これらの率は未治療の患者によって報告されたもの(37%)と有意差は認めなかった。 2,11
5. 推奨されるケアにおいて,発症前のリスクや徴候が見逃される可能性
臨床的に見逃される可能性 ファブリー病患者の誤診は日常臨床でみられ、正しい診断まで50年以上かかる場合もあり、発症から診断まで20年以上かかることは一般的である。 最近の研究では、ほぼ半数のファブリー病患者(46%)が正しく診断される前に最初の脳卒中を経験していることが報告された。(Tier 3) 7,13
6. 遺伝学的検査へのアクセス
遺伝学的検査 保険収載

参考文献

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4. Biegstraaten M, Arngrimsson R, Barbey F, Boks L, Cecchi F, Deegan PB, Feldt-Rasmussen U, Geberhiwot T, Germain DP, Hendriksz C, Hughes DA, Kantola I, Karabul N, Lavery C, Linthorst GE, Mehta A, van de Mheen E, Oliveira JP, Parini R, Ramaswami U, Rudnicki M, Serra A, Sommer C, Sunder-Plassmann G, Svarstad E, Sweeb A, Terryn W, Tylki-Szymanska A, Tondel C, Vujkovac B, Weidemann F, Wijburg FA, Woolfson P, Hollak CE. Recommendations for initiation and cessation of enzyme replacement therapy in patients with Fabry disease: the European Fabry Working Group consensus document. Orphanet J Rare Dis. (2015) 10:36.
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